発売機種 | 発売日 | 発売元 | 価格 |
業務用(MVS) | 1992年9月24日発売 | SNK | 58000円 |
+家庭用 |
欲望と野望が渦巻く街、サウスタウン。
力ある者が明日のために己を懸け、信念なき弱者は夢に破れて屍をさらす―この野生の法則だけが、この街のたったひとつの掟であった。
この街に道場を構えて幾年―極限流空手師範、タクマ・サカザキもまた、この街の弱肉強食の掟を生き抜いてきた人生の猛者のひとりである。
「立てい! リョウ! それしきのことで漢が務まるか!」
道場内、タクマの慄然とした瞳の先に、そのリョウと呼ばれた少年はいた。
「……だめだ、だめだよ……ボクには無理だ……父さんみたいに強くはなれないよ……」
涙に震えしなだれる金髪の少年――その者こそ、将来「無敵の龍」と呼称されることになる偉大な格闘家、リョウ・サカザキであった。
「女々しいぞ!自分の限界を見極めもせずに、はなっから諦めて何とする!」
タクマの憤怒の拳が、リョウに向かって唸りを上げる。
「せ、先生っ!もう堪忍したってや!リョウには……リョウには武術は向いてないんや……」
膝を落とすリョウをかばうように、タクマの前に一人の少年が立ちはだかった。
彼の名はロバート・ガルシア。イタリアの大資産家アルバート・ガルシアのひとり息子である。
父、アルバートの示唆により、ロバートは帝王学の一環として極限流道場に入門し、タクマを師と崇めている。
「……リョウ、お前が自分自身に打ち勝たぬ限り、お前の人生は始まらないのだ……本当の「強さ」とは何であるか、しかと心で感じ取るがよい……」
タクマはそれだけ言い残すと、リョウたちに背を向けて去って行った。
「……げ、元気だせやリョウ……あんまりしょげてると、ユリちゃんに笑われるで」
友人のそのなぐさめの言葉に、今のリョウにはただ力なく頷くことしか出来なかった。
その日の夜のことである。
外出したタクマと妻、ロネットが不慮の交通事故に巻き込まれるという事件が起こった。
幼い妹を連れて病院へ向かったリョウは、そこで悲しい現実と直面する。
……母は既に帰らぬ人となり、加えて、事故直後からタクマは消息を絶ってしまったのだ。
この日から、幼い兄弟のたった2人の生活が始まった。
道場は門をとざされ、親友のロバートは一時サウスタウンを離れることを余儀なくされた。
「……リョウ、ワイは必ず帰ってくる。それまでユリちゃんのこと、しっかり頼むで」
ロバートのその言葉を忠実に守るかのように、それからのリョウはユリを守るためだけに生きた。
ユリの笑顔のため、ユリの幸せのため、リョウは様々な修羅場をくぐった。
賭けストリートファイトでアザの耐えない日々が続き、何度も自分の無力さを呪う夜が続いた。
しかし、そのたびに思い出される父の言葉と、ユリの笑顔に励まされ、リョウは「拳だけでは知ることの出来ない、人間としての強さ」を育みつつあった。
「オレには守るべきものがある、倒れるわけにはいかない」
その信念は少年を強くした。
いつしかリョウは街でも評判のストリートファイターとなり、優しき心と修羅の拳を持つ「無敵の龍」へと成長したのであった。
そして同時に、再びリョウたちの前に姿を現したロバートもまた、「最強の虎」へと成長していたのである。
そしてそんなある日、その事件は起こった。何者かにより最愛の妹、ユリが連れ去られてしまったのだ。
「誰が!? 何のために!?」
わずかな手掛かりを元に、リョウとロバートはサウスタウンを駆ける。
10年前の交通事故……父、タクマの失踪……そしてユリの誘拐。
リョウは黒い宿命の渦を感じながらも、まだ見ぬ謎の敵に向けて、怒りの拳を震わせるのであった。
今、龍虎たちの運命の歯車が、ゆっくりと回り始める……。
ほかの格闘ゲームと比べて、少し特殊です。
超必殺技……ボーナスゲームをクリアすると一定条件で大威力の隠し技「覇王翔吼拳」が使用可能。
気力ゲージ&気力システム……「体力ゲージ」とは別に「気力ゲージ」が存在し、「気力ゲージ」は必殺技、超必殺技を使用するか、相手から挑発されると減少します。必殺技は気力ゲージが足りなくなると性能が落ちてしまいます。ゲージは「気力回復」で回復しますが、隙が存在します。
飛び道具相殺……飛び道具はタイミングが合えば通常技でかき消すことができます。これは覇王翔吼拳も同様です。
ユリ・サカザキがキャラクター・デビューを果たした記念すべき第一作目。
格闘ゲームの先輩である「ストリートファイター2」と比較してかなり独特の操作システムですが、キャラクターの拡大縮小、挑発、超必殺技、隠し超必殺技など、本作が由来で後の格闘ゲームに受継がれた要素が非常に多く、そういう意味ではまさしくエポックメイキングな作品でした。
「キャラクターの拡大縮小」とは、二人のキャラクターが近づくと画面が拡大してキャラクターが大きく表示されるシステムなのですが、開発バージョンでは発売バージョンよりさらに大きかったらしく、膝から下が見えないほど巨大になったらしいです。
ユリ・サカザキはストーリーにもある通り、役割は敵役である「組織」が父・タクマを利用するためのエサとして誘拐されるという、不遇のデビューとなりました。もちろん、このストーリーが後々、ユリというキャラクターを確立させるために大きな役割を果たしたことは言うまでもありません。
本作では大人しい印象のあったユリが、この続編「龍虎の拳2」で明朗快活&おてんばを絵に描いたような性格で登場しファンを驚かせましたが、スタッフによると「ユリは元よりこういう性格で、「1」では明るくふるまえるシーンがなかっただけ」とのこと。
ケイ・アミューズメントリースが移植したスーパーファミコン版はオリジナルの要素が多く、本編ではリョウとロバートしか持っていない隠し超必殺技を全キャラクターが持っている、Mr.BIGとMr.カラテが最初から対戦モードで使える、オリジナルのエンディングが存在する、など、なかなか面白い出来になっています。
そのSFC版独自のエンディングは、Mr.BIGがギースの部下である、ギースの企みでタクマにジェフ・ボガードを襲わせようとした(タクマが気づいて未遂に終わった)など、オリジナルのストーリーになっています。
なお、これまでのアクションゲーム(格闘も含む)では、基本的に製作スタッフが声を当てていましたが、この「龍虎の拳」がキャラクターボイスに本格的に役者を起用した最初の作品となりました。
(ただし、演じているのは関西を中心に活動する舞台役者。本格的にアニメ声優を起用した最初の格闘ゲームは1993年の「ナックルヘッズ」)
本作は「スコーン!」という効果音も特徴ですが、これを作ったのは当時サウンドチームにいた山田泰正氏。当時のトークイベントで知らない人から「スコーン山田」というあだ名を勝手につけられて怒っていたそうです。
また本作の開発には、後に「ファイトフィーバー」を開発することになる韓国企業ビッコム(現・ウノテクノロジー)から数人が出向していたといわれており、SNKとウノテクノロジーの繋がりはこの頃まで遡ることができるようです。
「餓狼伝説2」から登場するキム・カッファンは、ビッコム社長のキム・カッファン氏がモデルとも言われています。
(ウノテクノロジーがSNKから許諾を受けて製作しようとしていたのがPC用ソフト「THE KING OF FIGHTERS ONLINE」(開発中止))