THE KING OF FIGHTERS EX2 HOWLING-BLOOD

発売機種発売日発売元価格
ゲームボーイアドバンス2003年1月1日発売マーベラスエンターテインメント
開発:サン・テック
5800円

メイン・ストーリー

 美しさと落ち着きが見事に溶け合った瀟洒な庭先で、池の鯉に餌を与えていた和服姿の神楽ちづるは、ふとその手を止めて母屋のほうを振り返った。
 いったいいつそこへやってきていたのか、幼い女の子を抱いた長身の男が、濡れ縁のところからちづるをじっと見つめている。
 やに下がった笑みを浮かべた男は、芝居がかった仕種で一礼した。
「大神零児、ちづるちゃんのお召しによりただいま参上」
「ちゃん呼ばわりはよして。もう子供じゃないわ」
 ちづるは零児が抱いていた女の子をそっと手招きすると、その頭をそっと撫で、鯉の餌を手渡した。
 年の頃は二歳ほどだろうか、にっこりと笑ってお辞儀をした女の子は、ちょこちょこと池もほとりに立って餌を撒き始めた。
 愛らしいその姿を見て微笑んでいたちづるは、すぐにその表情を引き締めて、零児に向き直った。
「ここしばらく、封印の様子がおかしいの。何かが封印に働きかけているのを感じるのよ。
 そのせいで、かなり不安定になっているわ」
「なるほど……で、その何かってのは見当がついてんのかい?」
「おおよそはね」
 ちづるは一通の封筒を零児に投げ渡した。それを一瞥した零児の目がすっと細くなる。
「ふぅん……今回もまたKOF絡みってわけか」
「どうやらそうらしいわ。ただ、私は封印を守るためにここを動くことができない。
 だからわたしの代わりにあなたに出場してほしいの」
「そいつは構わないが……残りの二人は?」
「草薙京と葉花萌。二人ともアメリカにいるわ」
「草薙京はいいとして……ふぅん、萌ちゃんか」
「ええ。あなたと同じ十種神宝とくさのかんだからの一人よ。
 八握剣は十種神宝の中でも特に武門に長けた一族、今は未熟でも、将来的には誰よりも強くなる可能性を秘めているわ。もちろんあなたよりもね」
「それはそれは行く末楽しみなホープだこと」
 上着のポケットに招待状をねじ込み、零児は大げさに肩をすくめた。
「やってくれる?」
「OKOK、天羽家のこともあるし、十種神宝が関わってくるとなれば知らん顔もできないしね。
 何より、ほかならぬちづるちゃんの頼みじゃ断われないさ」
 零児は興味津々といった表情で鯉を眺めていた娘を抱き上げ、ちづるにウィンクをして歩き出した。

龍虎の拳チーム ストーリー

 印象的な目をした長髪の男が、記者会見の席上でスピーチしている。一斉に焚かれるフラッシュの数が、マスコミの注目度の高さを表していた。しかしそれも当然のことだろう。KOFといえば、いまや単なる格闘技大会の枠を超えた、世界屈指のエンターテイメントなのである。
 様々な大会の優勝トロフィーがずらりと並ぶ道場の事務所でスポーツドリンクを飲んでいたユリは、リモコンを放り出してテレビの画面を見つめた。
「へえ……今年もやるんだ、KOF」
「あ! おまえ、こんなところにいたのか!」
 首にひっかけたタオルで汗を拭きながらじ部署へとやってきたリョウが、呑気にテレビに見入っているユリに気付いて眉を吊り上げた。
「おまえが急にいなくなるから、年少部の稽古まで俺が指導するハメになったんだぞ?」
「あ、ごめーん、つい忘れちゃったぁ」
「つい忘れたじゃないだろ! 指導員がそんなことでどうする? だいたいおまえは、いつも自分を子供扱いするなって文句を言っているわりには大人としての自覚が足りないんだ。そもそも…」
「あー、はいはいはい、判りました。……たくもー、すぐにそうやってお説教するんだから」
 何だかお父さんが二人に増えたみたい、とつけたし、ユリはボトルのキャップを閉めた。
「――ところでおまえ、何を見てるんだ?」
「あ、そうそう! またKOFやるんだって!」
 兄の一言で肝心なことを思い出したユリは、記者会見の中継に再び見入った。すでに実行委員長と名乗った男のスピーチは終わり、おおまかな大会スケジュールについての説明にうつっている。
 リョウは肩脱ぎになってソファに腰を降ろし、上半身の汗をざっと拭ってひと息ついた。
「KOFか……わざわざ全世界に向けて記者会見までやるってことは、今回はまともな大会なのかもな」
「どっちにしても、KOFが開催されるなら絶対出場するって言うわよねえ、お父さん」
「だろうな」
 リョウたちの父・タクマは、自分が創始した極限流空手を世界に広めるため。各地にいくつもの支部を置いている。今のご時世、商売敵のスポーツクラブやフィットネスジムは多いが、全世界的な知名度を誇るKOFの舞台で極限流の強さを知らしめることができれば、一躍その知名度はアップするだろう。
 レオタードに包まれた膝小僧を抱え込み、ユリはのんびりといった。
「前回はおたふく風邪でダウンしちゃってたし、今回はわたしも出たいな。……お父さんたちとは別のチームで」
「またキングや舞ちゃんたちと組むのか? まあ、ウチの道場からは俺と親父とロバートの三人で出ることになるだろうから、別に俺はそれでも構わないんだが」
「いや、そうはいかん」
 リョウとユリの会話に、不意に野太い声が割って入ってくる。ふたりがはっとして振り返ると、戸口のところに、白い道着姿のタクマ・サカザキが立っていた。
「親父……聞いてたのか」
「どうしてよ、お父さん? 何でダメなの?」
 弾かれたように立ち上がったユリは、渋い表情で腕組みをしている父につかつかと歩み寄った。
「別にいいじゃない、お父さんたちはこの前と同じ男臭〜い三人組でエントリーして、わたしはわたしで女の子だけのチームで出るから」
「だから、そうはいかなくなったのだ」
「すまん、ユリちゃん。堪忍してや」
 ユリを押しのけるようにして事務所に入ったタクマの後ろから、伏し拝むように両手を合わせたロバートが入ってきた。
「ロバートさん……いったいどうしたの? 堪忍してって……」
「いや、それがなあ」
 申し訳なさそうに頭をかき、ロバートは説明した。
「何やよう知らんけど、今度のKOFの主催者っちゅうのがスイスあたりの実業家らしいねん。でな、そいつがヨーロッパの財界に働きかけて、あちこちからスポンサーかき集めてきたんや。それでまあこないな規模のデカいたい開になったちゅうワケなんやけど……実は、その」
「何だ、はっきりしないな。どうかしたのか?」
「……実は、アルバートがその有力なスポンサーの一人だということが判ってな」
 歯切れの悪いロバートに代わり、タクマが重々しく口を開く。アルバートというのはタクマの古くからの友人、アルバート・ガルシア――すなわち、ガルシア財閥の総帥にしてロバート・ガルシアの実の父親である。
「ロバートさんのお父さんがスポンサーだと……なにかまずいの?」
「大口のスポンサーであるガルシア財閥の跡取り息子が選手として出場するのはいかがなものかと、そういう声が出ておるらしい」
「ゆうてみれば、主催者側の人間がエントリーするようなもんやさかいな」
 ロバートは苦笑混じりに肩をすくめた。
「スポンサーへの配慮っちゅうやつで、ワイがジャッジからエコ贔屓されるんちゃうかと考える人間も、ま、そのうち出てくるやろ。もちろん、ワイはそないなマネしてもらわんと勝つ自信はあるんやけど、タダのいいがかりやとしても、そないなウワサが立ったら極限流の名に傷がつくやろ?」
「そのあたりを配慮して、ロバートは今大会には出場しないそうだ」
「ってことは、今回のメンバーは――」
「無論、わしとリョウ、そしてユリの三人でエントリーする。わしら親子でトーナメントを勝ち進み、極限流の強さを全世界にあまねく知らしめるのだ!」
 数々の伝説を築き上げてきた拳でテーブルを叩き、タクマはそう力説した。
「ええええええ!?」
 ことさら大きな声をあげ、ユリは頭を抱えた。内心、ユリがもっともそうなることを恐れていた組み合わせがまさにそれだったのである。
「よりによって親子三人水入らずで出場するの〜? そんなのイヤよぉ! ねえロバートさん、どうにかならないわけ?」
「すまん、ホンマ堪忍してぇな、ユリちゃん」
 ロバートはロバートで、おそらくユリと一緒のチームで出場できることをひそかに期待していたに違いない。そのささやかな夢が打ち砕かれたということでいえば、ユリだけでなくロバートもまた被害者といえる。
「そんなぁ……」
 ロバートに八つ当たりするわけにもいかず、頑固な父親を説得する気力もすでに失せたユリは、その場にぺたんとしゃがみこんでしまった。
 そんな妹の頭を軽く叩き、リョウはにこやかな――それゆえに今のユリにとっては何とも腹立たしい――笑みを浮かべた。
「じゃあ早速稽古だ。行くぞ、ユリ」
「どっ……どうしてこうなるのーっ!」

コラム

 散々な評価を受けてしまった前作にマーベラスが奮起したのか、本作は打って変わって、GBA史上最高の格闘ゲームと言われるほど評価がアップしました。開発がアートゥーンからサンテックに変更されたことがよかったようです。
 また、(当時の)「KOF」の正伝と違って、ストーリーも、内容も日本語も充分まともなレベルだし、本家に負けない濃い新キャラクターも満載です。

 ベースは「KOF2000」ですが、カウンターモード、アーマーモードが削除になり、システムは別物になっています。ストライカーの選択はできず、次に戦うキャラが必ずストライカーになります。
 ストーリープレー中には「テクニカルジャッジ」というものが加算され、この値がMAXになったキャラクターが増えるごとに隠し要素が開放されていきます。
 特に強烈なのが「マスターモード」で、空キャンセルが可能になり、さらに超必殺技が使い放題になるという超攻撃的モードで、普段なら繋がらない連続技が繋がったりします。

 今回は特殊なエンディングが複数用意されていて、京・庵・零児、萌・純・壬羽の組み合わせの他、なぜかリョウ・零児・拳崇というよくわからない組み合わせがあります(笑)。
 このエンディングがかなり強烈で、リョウの頭がおかしくなります(笑)。必見といえば必見かも。

 ちなみに、「EX」シリーズに登場した十種神宝(とくさかんだから)は、以前にPSのADV「KOF京」にも登場しましたが、両作品では設定が大幅に違います 。

神宝該当者
(KOF京)(KOF EX)
沖津鏡テリー・ボガード葉花萌
辺津鏡アンディ・ボガード大神零児
八束剣リョウ・サカザキ華守純
蛇比礼ロバート・ガルシア黒咲壬羽
蜂比礼不知火舞天羽忍
品物之比礼キング(未登場)
生玉二階堂紅丸(未登場)
死返玉大門五郎(未登場)
足玉麻宮アテナ(未登場)
道返玉ケンスウ(未登場)

必殺技コマンド

特殊技コマンド
燕翼 + P
旋回脚 + K、K
必殺技コマンド
虎煌拳 + P
覇王翔吼拳 + P(押しっぱなし)
飛燕疾風拳 + P
飛燕旋風脚 + K
空牙 + P
裏空牙(空牙中に) + P
百烈びんた
(コマンド投げ)
+ K
超必殺技コマンド
飛燕鳳凰脚 + K
飛燕烈孔 + P
MAX超必殺技コマンド
飛燕鳳凰脚 + KK
滅鬼斬空牙 + KK

ストーリーデモ

極限流チーム

■八神チーム戦前
リョウ「!」
タクマ「おぬしは……八神庵か!」
「誰かと思えば貴様らか……」
「脳天気な空手家さんたちの出番はここまでだ」
「あとは私たちに任せて、あんたらはさっさとおウチに帰りな」
ユリ「ちょっとちょっと! 脳天気って誰のことよ?」
壬羽「……私たちは先を急いでいるのよ」
リョウ「何かワケありのようだが、帰れといわれて素直に帰るわけにはいかないな」
タクマ「左様。極限の拳、その目で見ていくがいい」
「ふん……」

■八神チーム戦後
リョウ「目の前に立ちはだかる敵はこの拳で打ち砕く! これが極限流だ!」
「く……」
「ま、待ちな……っ!」
タクマ「おぬしら、もっと強くなりたければ我が道場の門を叩くがいい」

■?戦前
ユリ「ここが大会主催者の部屋……?」
リョウ「どんな相手だろうと全力を出して闘うのみだ」
タクマ「ぬう……?」
「優勝おめでとう」
ユリ「あなたが今大会の主催者なの?」
「グスタフ・ミュンヒハウゼン……そうお見知りおきいただこうか」
リョウ「グスタフ? ロバートのいっていた黒いウワサのある男というのはあんたのことか」
グスタフ「ほう……そんなウワサがあるのかね」
タクマ「確かにおぬし、何やら妙な殺気を漂わせておるわ」
グスタフ「ふん。どうやら君たちは、拳だけですべてが解決できると思っているようだが…」
グスタフ「世の中はそのように単純ではない」
ユリ「こらぁ! 誰が単純ですって!?」
グスタフ「それよりも、さあ、始めようか。君たちの最後の闘いを!」
リョウ「何? ……! この気配は!」
ユリ「この風……まさか、ゲーニッツ!?」
タクマ「何? ゲーニッツとやらは倒されたはずではないのか?」
リョウ「バカな……いったい何者だ?」
グスタフ「この少年は、オロチ四天王のひとり、吹きすさぶ風のゲーニッツを復活させるためのヨリシロだよ」
タクマ「ヨリシロだと?」
グスタフ「さあ、彼と闘いたまえ。強い精神力を持つ者たちがぶつかりあうことによってオロチの血は目を醒ます」
リョウ「! まさか、KOFを開催したのもそれが目的か!?」
グスタフ「ああ、その通りだよ。そうと判って気が済んだかね? なら、そろそろ死にたまえ」
ユリ「勝手なこと言わないでよ、もう!」
グスタフ「いずれにしろ、人類は滅ぶべき種なのだよ。君たちはそれに先駆けて滅ぶだけのことだ」
グスタフ「……さあ、やれ、忍!」
「……僕に命令するな」
グスタフ「何?」
「僕はもうあなたの操り人形じゃない……」
ユリ「い、いったいどういうことよ!?」
「くだらない……くだらない大人たちも、」
「十種神宝も、三種の神器も、オロチも、何もかも…」
「すべて、壊してやる……!」
タクマ「どうやら何か大きな意思に飲み込まれかけているようだな」
リョウ「だったらこの拳で目を醒まさせてやるぜ!」

■忍戦後
ユリ「な、何が起こったの!?」
タクマ「うむ……すべての証拠をここで消し去るつもりらしいな」
リョウ「やれやれ、一難去ってまた一難てところか」
タクマ「長居は無用、行くぞ、リョウ、ユリ!」
リョウ「ああ!」
―――暗転
(ロバート)「そないなことがあったんか……」
リョウ「ああ。本当にKOFっていうのは平穏無事には終わらないもんだよな」
(ロバート)「で、このお子さまたちはいったい何なんや?」
ユリ「そのグスタフとかいう人にさらわれてた子供たちだってさ」
リョウ「次にまた同じようなことがあっても自分で自分の身を守れるように、オヤジが手ずから空手を教えているんだよ」
タクマ「気合が足らんぞ! 声を出せ!」
(少年たち)「いーち! にー! いーち! にー!」
リョウ「……強引に入門させて、そのくせきっちり月謝も取ってるんだけどな」
(ロバート)「そらまあ……師匠もしっかりしとるわ」